昨日18日にSosa Organic Communityの視察で有機農業が盛んな埼玉県小川町へ行ってきました。
小川町は、人口約27,800人。広さは60.36㎢
(匝瑳市の人口33,900人弱。広さ101.8㎢)
和紙の技術が平成26年にユネスコ無形文化遺産に登録されています。
小川町には、有機農家の金子美登(よしのり)さんという大きな存在がありました。
小川町だけにとどまらず、日本の有機農業界を牽引し、時代を切り拓いてきた“偉人”と言っても過言ではない方です。
金子さんは1971年から有機農業に取り組み始めました。
公害・環境問題、農薬中毒、食品汚染という時代背景の中でも、時代に流されず、自分の信じるものを貫き通してきました。東日本大震災では、都市化・工業化が農山漁村の犠牲の上に成り立っていて、都市が食とエネルギーを農村に依存していることが露呈しましたが、金子さんはそれよりもずっと前に感じられていたのだと思います。
「食」と「エネルギー」の地産地消の時代へ。
金子さんが営む霜里農場では、肥料は山の落ち葉や燃やした薪の樹木灰、農場で飼っている牛や鶏の糞や人間の排泄物を使っています。
そして、天ぷら油の廃油をトラクターの燃料にしたり、薪ボイラーでお風呂を沸かしたり、生ゴミなどでバイオガスを作ったり、できる限り石油をはじめとした輸入エネルギーに頼らず運営されています。運営と言いますか、自立した暮らしそのものなのかも知れません。
その取り組みが注目され、日本全国だけではなく、世界からも視察や研修に人が集まってきています。
2001年に村が動きます。
霜里農場がある下里2区のお隣の集落、下里1区の区長さんが「金子さんのところには若い人たちが集い、楽しそうに農業をしている。私たちがマスクをつけながら農薬をかける農業と、金子さんのやっている農業とどっちがいいか。これからの時代は金子さんのような農業だ。集落のみんなを説得してきたから、私たちにやり方を教えてくれ」そう言って、集落の全員(20ha強。この地区は里山の小規模農農業)が一気に有機農業に転換しました。
ホタルが飛び交うようになり、高倉健さん主演の映画「ホタル」の撮影地となり、高倉健さんも「ここに住もうかな」と言っていたそうです。
そして、2010年に農林水産祭「村づくり部門」天皇杯受賞し、2014年には天皇、皇后両陛下が訪れました。
小川町の農家700軒のうち、73軒が有機農家。過去20年の新規就農者39名のうち、33名が有機農業者。新規就農者のうち33名が町外からの移住者。つまり、町外から移住してきた新規就農者の100%が有機農業者ということになります。
有機農業の面積19%。日本全体の0.6%よりはるかに高い割合です。
小川町では、町独自の認証制度「OGAWA’N Project」をつくりました。
有機農業への認証だけでなく、ナンバーワンだと誇れる取り組みや小川町の資源を有効活用する循環型農家の認証、土壌微生物多様性活性値が高く、豊かな土づくりをしている農家への認証も。
学校給食にもOGAWA’N認証を取得した農産物を積極的に使用しています。
無農薬ぶどうを自ら栽培し、無添加ワインをつくっている武蔵ワイナリーの福島さんも小川町に魅了され、会社を辞めて移り住んできた移住者。
魅力的な小川町やその取り組みに、面白い人たちが引き寄せられるように次々に移り住んでいます。
小川町の手づくり豆腐店「とうふ工房 わたなべ」では、霜里農場や地元の有機大豆を使用しています。
全量買取契約で「農家が来年も農業をしたいと思える価格」で買い取り、地元農家を支えています。
日本の大豆自給率は6%。国産大豆さえ当たり前じゃなくなった時代に、地元産大豆を使用し、農業を支えることで里山や自然環境の保全に貢献しています。
とうふ工房 わたなべの豆腐は美味しいと評判で週末には必ず行列ができるほど有名になりました。
駅前にも大豆のおからを使った、おからドーナツ屋さんが出来ました。
そこで調理に使った油やわたなべ豆腐の油、町内の保育園などからも使用済みの油は霜里農業に集められ、トラクターなどの燃料となる。
町ぐるみで農業を支え、大きな循環が出来ていて、素晴らしかったです。
地域経済の循環により、生きるために必要な食をつくっている農業や、自然環境を含めた町の財産が外へ流れていかず、守り繋がれていく。
環境に負荷をかけない昔ながらの里山の暮らしと現代の暮らしが心地よく融合し、本当に感動しました。
一昨年、2022年9月24日に金子美登さんはお亡くなりになり、霜里農場は2017年に養子となっていた金子宗郎さんが跡を継がれました。
霜里農場に通った数百人の有機農業者たちは、日本全国に広がっています。
金子美登さんが信念を持って取り組んできたことは、確かな形となって受け継がれています。
有機農業を語ると、慣行農家との対立になりがちになります。
ですが、農業を考えることは、生産者だけでなく、消費者を含めたこの地球に住むみんなの問題です。
地域の自然環境や里山に生きる多種多様なたくさんの生き物、そして地球のこと、次の世代へつなぐ時間軸も含めて、どうしていくのか考えていかなければいけないと思います。
小川町には、これからの日本に必要な循環型の社会の見本となるような姿を見せていただきました。
ありがとうございました。